目黒区総合庁舎改修 / 村野藤吾 / ★★★★

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作品HP:https://www.idee.co.jp/jmm/01/

https://www.city.meguro.tokyo.jp/shisetsu/shisetsu/chosha/muranotogo/index.html

所在地:東京都目黒区上目黒二丁目19番15号

設計者HP:http://muranodesign.jp/index.html

竣工年:1966

プログラム:総合庁舎

構造様式:SRC造

敷地面積:18,312 m²

建築面積:6,512 m²

延床面積:46,814 m²

仕上げ:

ルーバー:アルミ鋳物

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駒沢通りから十分にオフセットされた位置に建物が配置され建築面積の割に威圧感がなく、敷地内においてゆとりが感じられる。高低差のある敷地条件を利用し、建物が周囲に馴染んでいる。中央に駐車場と湖が配置されたコの字型のボリューム配置。屋上庭園・和室、広いアプローチも設計されており、豊かな空間となっている。

ファサードは彫りの深くRに型どられたアルミ鋳物となり、アルミ鋳物とガラス面の間に縁側のような空間が配される。アルミ鋳物は基本的には辺、支柱の2パターンの組み合わせである。整然と配置されており、H&Dのような繊細さを感じられる。屋上庭園の縁側スペースには球状のフォームのソリッドな椅子と机が配され、沢山の人が食事に訪れる人気スポットになっていた。縁側さながらの気持ちの良い空間である。

アプローチの庇の曲面はなんとも言えない心地よさを感じる。庇には構造鉄骨円柱が分散的に最小限配置されており、ランダム感が非常に気持ち良い。円柱は、床と連続して軒裏の中に入っていくようなディテールとなっている。庇同士の接合部の処理も無駄が感じられない。

エントランスホールは広く白い荘厳な空間が用意される。採光は天井のモザイクのトップライト、壁下部から入ってくる。奥に見えるステンドグラスと螺旋階段は上品に配される。螺旋階段のRは3Dなどの検討ができない時代によくこのようなきれいなRが描けたと感心させられる。村野手摺はフェミニンで線材を多く用いたか細さがある。複数の要素を互いに邪魔せずに統合するのは難しいことだがそれを簡単にやってのけている。

全体の構成から、細部にディテールに至るまで自身のやりたいことを折り込みながら、丁寧に仕上げていく。使えば使うほど味がでるような50年以上前に竣工した建物なのに今尚高い評価の愛される建築だと感じた。これが良い建築なのだと、心から感じる。

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 建築を経験することは、美術館で作品に出会う経験と似て、作者の考えや人柄に触れることができます。1966年に完成した村野藤吾設計の目黒区総合庁舎(旧千代田生命保険相互会社本社ビル)は2003年の改修を経て、いまも私たちに氏の思想を伝えています。
駒沢通りの坂を上り、右手に建物を見ながら入口に向かうと、更に緩やかな丘があらわれる。高低差を生かしたアプローチが周囲の植物と溶け込んでいて、歩を進める程に建物の見え方が変化するという魅力的な出会いが設定されている。正面入口から建物に入ると、そこには驚くほど静謐な空間。両側の下部に開いた窓から穏やかな光が差し込み、作野丹平のモザイクを施したトップライトや岩田藤七のガラスブロックが光のやわらかさをつなげていて、全体と部分の経験の往来が空間を味わう気持ちを高める。建物を訪れた者は村野に導かれる様に自然と繊細な細部に目を向け、同時に空間全体の印象を味わい、建築で生まれる時間を経験する。これは村野建築の魅力だと思います。
これまで現代建築を何度か撮影しましたが、建築に写真的な見所が設定されてる場合が多く、撮りやすいという印象があります。視覚的経験の強さを優先した空間は写真との共犯関係が成り立つからです。今回の撮影では、1枚の写真に多くの情報を取り込んでイメージの強さを目指すのではなく、そこにいる人のために村野藤吾が用意した生きられた時間を表せたらと思いながら撮影しました。

まずその表情を特徴づけているのが、建物の全面を覆うアルミ鋳物のルーバーです。竣工時は周囲が住宅街であったため、光を跳ね返さずに吸い込むことを意識したといいます。同時にアルミに巧みな表面処理を加えることで、冷たさを感じさせない肌で触れたくなるようなしっとりとした質感に仕上げました。またこれらルーバーのやわらかなフォルムには、角を好まなかった村野が柱や桟に至るまで面取りを指示していた、というこだわりを見てとることもできます。そして、この建物のゆるやかで美しい曲線をもった階段は、階段の名手として知られた村野の建築でも特に傑作と名高いものです。あたかも宙に浮いたかのような浮遊感をもたらす1段目は、出色の出来といえるものでしょう。